momoyoukan’s diary

日記やエッセイらしいものをぼちぼちと

読了『残機1』

巡り合わせは舞台刀剣乱舞だった。

気高き本科「山姥切長義」を演じる梅津瑞樹さん(以下、ウメツさん)が文章を綴るお仕事もされていることを最近知り、彼の著作をさっそく買って読んでみた。

 

久々にカフェでゆっくり本を読むことができ、気分がいいので感想などを書いてみる。

店で飲むチャイはうまい。

 

そもそもはじめにウメツさんという一役者を見たときには、なんとも矜持の高そうなお綺麗なお顔の人という印象だった。気高き本科にふさわしいキャスティングだと感じたと同時に、顔の良さで人生を生きてきた人という大変失礼極まりない偏見も抱いたことは久しい。

 

しかし、この方が大学で文学を学び、その知識をもとに本も出していることを知って、どんな言葉を綴るのだろうかと興味がわいた。YouTubeでウメツさんの動画たちをみることで、その人間味の深さを垣間見、第一印象を改めるべきことがわかった。

 

インタビュー動画や個人チャンネルの動画を見ると、なんとも文学畑を感じさせるような言葉選びやセリフ回しに引き込まれる。日常の生活のなかで素でこのような言葉を紡ぐ人はなかなか見ないので新鮮味を覚える。

 

かくしてウメツさんのが手がけた御本『残機1』を拝読することになった。

この独特な響きのタイトルには意味が込められており、ネットで検索すると出てくるので気になる場合はそちらをどうぞ。どういうことだったかは私は忘れたので説明は省く。

 

『残機1』はこれまで雑誌で連載してきたエッセイと書き下ろしの短編小説が収録されている。

ページの大部分を占める随筆では、ウメツさんの語りの雰囲気そのまんまの彼らしい言葉が綴られている。

役者のお仕事のこと、部屋の本たちのことなど、彼の生活のなかで思い考えることが記されている。その表現の仕方はまるで、同じ世界をいきているが同時に存在する別レイヤーのことを話しているかのような、おもしろい錯覚を起こさせてくれる。

その日々の綴りの中にぽつぽつと少しだけ見せてくれる彼の苦難の記憶に、ちょっと励ましをもらったりする。これだけ舞台に引っ張りだこなのは、それ相応の努力を続けていることの表れだったのだなぁと、愚かにも私は今さら知るのであった。

 

 

22本の随筆が終わって、うしろには4本の短編がお出ましだ。

なんと、これまでの小難しい言葉のこねくり回しとは打って変わって、短編小説はまともに現代文学調なのだ。明治まもない人たちのような語り口調だったらどうしようかと、実はこっそり思っていたが大丈夫だった。

 

短編小説で一番印象深かったのは「ゲートボール大会」である。

隠居のじいさん達の話なのだが、じいさんどもを「じじい」と称しているところが、彼の思い切りの良さと若者らしさを感じる。数ページの短い話だが、じじいたちの小さな社会の変化の瞬間を目の当たりにすると同時に、その社会性の奥深さがわかる。深掘りすると嫌気がさしそうな話題だが、短編特有の尺の短さの中でさりげないおかしみと心地よさで収まっている。

 

 

 

ひととおり最後まで読み、おもしろかったの一言が思い浮かんだ。シンプルにおもしろかったのだ。

特にエッセイは共感できることもあればなんだかよくわからない世界だったりもするので、またじっくり読み返すだろう。

ウメツさんは、私の年齢からするとちょっとお兄さんであり、おおむね同じ世代にくくられるのだが、ちょっと先を行くお兄さんの大人びた生き方とものぐさな私生活が、若造の私にはクスッとおもしろく思えた。

彼がこの先10年、30年と生きるときの文章も読んでみたい。これからも文章のお仕事が続いていくよう祈る。

 

2024年4月13日